Darkness world -ある捻くれ者のつぶやき-

成瀬香織です。私の幼少期からの出来事をエッセイ形式で書いていきます。(ちなみにこれは全て私の心理カウンセリングで使われたものです。虐待などの内容を含むため、閲覧にはご注意ください)

え?先生が・・・まさかの自殺?!

中学校3年生の2学期の終わりに、私たちの学校にいたある新米教師(以下藤山)が自殺をした。自殺をした時には別の学校に赴任していたのだが、実家が私たちの住む地域内にあったせいか、話はすぐに関係者の間に広がった。

その日は土曜日だった。当時土曜日でも午前中は普通に学校があったので、いつものように登校して教室内で生徒たちはいつもと変わらず友達とダベったり漫画を読んだりしながら授業開始を待っていた。そして土曜日の一時間目は美術、教科担任は学年主任の先生(以下加山先生)だった。そしてこの時間もいつもと何ら変わらない。加山先生が教室に入ってきて生徒は起立をして礼をしてと。そして授業開始となるはずだった。この日は当時仕上げていた絵画を仕上げて提出するという段階だった、しかし授業開始まもなく加山先生の口から藤山が数日前に亡くなったと告げられた。

起立!礼!着席!

いつもどおり授業が始まった。そこで加山は重い口調で話し始めた。

「お前ら、藤山先生覚えているか?・・・実はだな、藤山先生・・・亡くなったんだってな」

無論転校してきた生徒以外は藤山の存在は存知ている、言うまでもなくどんな先生なのかなども知っているわけだ。先生曰く藤山は数日前に死亡、確か私たちの住む地域から車で2時間ほどの場所に前年に転勤していったはずだと・・・。じゃあ転勤先で何かがあったのか?などという憶測もあった。驚きはしたものの、授業は授業でいつもと変わらなかった。加山先生の口から死因は語られなかった。

 

授業が終わって休み時間、いつもは騒がしいはずの生徒たちだが、この日は藤山の一件で持ち切りだった。

「藤山が死んだって!」

「うそ!マジかよ!!」

「加山が今朝の授業で言ってたんだ!」

というようなやり取りばかりだったが、藤山が亡くなった話は瞬く間に学年中に広がった。そしてここで自殺なのか病死なのかいろいろな憶測が生徒たちの間で飛び交った。死因について加山先生の口から語られていないこともあり、加えて藤山の死亡がテレビや新聞でニュースになっていないこともあり、病死か自殺かというような話にもなったのだと思う、それは当然だ。無論受験シーズンにこのような話で生徒たちは少なくとも動揺していただろう。

 

藤山という教師は、私たちが中学1年生の頃に新採用で私たちの学校に赴任してきた英語の女性教師だった。後に知った話だが、藤山自身は勉強ができるタイプであり、中学から大学まですべて首席で卒業したほどであった。そして藤山自身が長年夢見ていた中学校教諭になったとのこと。彼女は私が中学校1年の頃のクラスの副担任であったが、彼女は私たちのクラスの英語教科担任ではなかった。だから実際には授業は受けたことはないので、彼女の授業がどんなものだったかまでははっきり分からない。ちなみに友人のアスカやエリのクラスの英語は藤山が教科担任だったのだが、アスカたちから聞いた限りでは生徒から慕われるような教師ではなかったようだ。(余談だがあっこちゃんのクラスと私たちのクラスの英語担任は別の男性教師だった)

 

アスカ曰く、ある授業中。

私たちの学校の英語の授業はなぜか授業が始まる前に英語の歌をうたうというのが当たり前だった。例えばABCソングとかみたいなもの。そこで藤山がある英語の歌の説明を生徒の前でして、例を見せたかったのだろう自らうたってみたところ、一部の生徒に冷やかされて歌うのをやめてしまったのだ。それだけじゃなく彼女の授業はいつも騒がしい。そこで当たり前のように藤山が生徒に向けて「静かにしてください!」などと注意をするのだが、クラス内の騒々しさは収まるどころかエスカレートするのだった。まさに学級崩壊レベルだ。というのも藤山自身、決して明るい雰囲気ではなく常に顔に縦線が入っているような雰囲気で、いつも青白い顔をしておりやせ形で黒のおかっぱ頭。言い方がよくないけれど私自身「幽霊みたい、お化け屋敷に居てもおかしくない」と思ってしまったほどだった。たとえば集合写真を撮ると、彼女のところだけが周りとは明らかに雰囲気が違っている、心霊写真のように見えることがあったぐらいだ。

藤山は私たちのクラスの副担任ということもあって担任が不在の日のホームルームなどに藤山が顔を出す。だが、ここでもやはりアスカのクラスの英語の授業のようになってしまっていた。それもそのはず、迫力というものが全くなく幽霊のような雰囲気で声も常に小声でボソボソ話す感じだからだ。教壇にいてもやはり雰囲気的に教室の隅っこにぽつんといるようになってしまっていた。だから余計に正直少しうるさい教室内で彼女の声を聴こうとしても教室の真ん中あたりに席があったらすでにそこで聞こえないレベルなのだ。そんな彼女がホームルームで注意事項などの話をしたとしても、もはや何を言っているのか聞き取れず、結局彼女は何を話したかったのか・・・と思えるほどであった。ただひとつだけ覚えていることがある。それは担任不在のある日のこと、藤山が帰りのホームルームに現れた。そしてここでも騒々しいという言葉がぴったりな雰囲気の教室内ということもあり、彼女の言葉など聞こえるはずもない。だが当時教室前方の席だった私の耳に何とか入ってきた言葉は「万引きは犯罪です、遊びじゃないんです」というような言葉だった。ちょうど地元のある本屋が店内での万引きの様子を防犯カメラで撮ったものをビデオテープにダビングして販売していたというニュースがあったので、それに基づいた話だったのだろうと思った。この話を担任がしたとなれば皆が黙って聞いていただろう、だが副担任になったらこの有様なのだ。結局ほとんどの生徒がこの話を聞いていなかっただろう。

エリ曰く彼女のクラスの英語の時間もアスカたちのクラスの英語の時間と同じような有様だそう。まさに誰も授業を聞かないような雰囲気、それだけじゃなくうるさすぎる、先生が注意しても誰かが騒ぎ立てて皆大騒ぎといったような感じの悪循環。そしてそんな藤山も仕返しなのか何なのか、2学期の中間テストの問題を出題した際に私たちがまだ習っていないものを出題してきたのだ。藤山の授業を受けていない生徒、受けている生徒問わず「習っていない」ということが発覚するや生徒たちから藤山への反感は大きくなる一方で、授業妨害とも言える騒々しさは更にエスカレートしたのだ。

 

そして中学1年の離任式。そこには藤山の姿もあった、送られる側に。

藤山は別の中学校に転勤することになったのだ。この時は「あー、転勤になるんだ」ぐらいにしか思わなかった生徒の方がほとんどだろう。ただ、一部では生徒たちにいじめられるから自ら教育委員会に転勤を申し出たという噂もあった。さすがに真相は不明だが、新採用で赴任して1年で転勤となるとやはりよからぬ事情があったのだろう。

それから1年半強の歳月が過ぎて、その藤山が亡くなったというのだから本当に驚いた。新採用でうちの学校に赴任して一年で転勤、その後の話は不明だが転勤後1年半ほどで死亡だから余計に・・・。それだけじゃなく藤山の実家が私たちの住む地域であることから、生徒たちも驚きを隠せない。無論この話は後に生徒だけじゃなく父兄たちの間でも広がり、藤山が死亡した経緯が自殺であることが判明することとなった。生徒から親の順に話が伝わり、そこで詳細を知る人たちからの話が親を通じて生徒たちに伝わってきたのだろう。

 

藤山は自宅近くの空き地にある立木に縄を吊るして、そこで首を吊って自ら命を絶ったのだ。父兄からの話によると彼女のその遺体は見るも無残な状態で発見されたそうだ。その後葬儀が執り行われたのだが本当はそこにいるはずの藤山の兄がそこに参列しておらず、目撃者が言うには葬儀当日、兄は藤山の葬儀が行われている自宅から離れたところにいて、葬儀の様子をじっと見ていたそうだ。そしてそれだけではなく、藤山の兄はその時とある宗教の服を着ていたようだ。その宗教というのは当時反社会的勢力だと言われ、全国各地で殺人などのテロ活動をしていた宗教ということもあり、藤山の兄の話は単独で父兄から生徒の間に瞬く間に広がった。

現役中学教諭、実家が地元、自殺ということもあり、兄の宗教の話も相まってこの話は生徒たちの間というより父兄の間でしばらく話題になっていた。

 

受験シーズン中の事件であったこともあり、生徒たちが動揺するのは言うまでもない。だがその生徒たちを尻目に父兄たちの話はしばらく藤山の自殺と藤山の兄の話題だ。この話は私たちの卒業の年の離任式まで続くのだった。離任式に来た父兄たちもずっとこの話ばかりだった。