Darkness world -ある捻くれ者のつぶやき-

成瀬香織です。私の幼少期からの出来事をエッセイ形式で書いていきます。(ちなみにこれは全て私の心理カウンセリングで使われたものです。虐待などの内容を含むため、閲覧にはご注意ください)

ネズミとお米

私が幼稚園の年長になる頃の話。

我が家に三人の母親がやって来た。ちょうど玄関脇の部屋で遊んでいた私は聞き耳を立てるまでもなく会話の内容は聞こえてくるものだから、聞いてしまっていた。

「来年から○○幼稚園(私の通う幼稚園)にうちの子たちが入園するんですけど、あそこって送迎バスも無いでしょ?だから成瀬さん家で娘さんと一緒に毎日送って行ってもらいたいんです」

と我が家にわざわざ頼みに来たのだ。しかも何回も同じ人がうちに来て幼稚園の送迎をしてくれと言っている。その人たちが別にどの幼稚園に子供を通わせようが構わない!だがなぜ我が家に送迎まで頼むのだろう。母親はしぶしぶ了承した。後に聞いた話だが、私の通う幼稚園は送迎が無いけれど公立でいちばん保育料が安いということで、みんなそこに決めたらしい。ちなみに私立の送迎付きの幼稚園だと高すぎて通わせられないとのこと。

この母親方は何を考えているんだろう。後に聞いたのだがうちの母親は「わざわざうちに『送迎してください』って毎日頼みに来ていた。しかもしつこく!あんなんじゃこっちも断れない、近所だし」とぼやいていた。

 

年少組の件はうちの母親がしぶしぶで解決したものの、そしたら今度は同級生のアキノリ君のお母さんまで我が家に送迎を頼みだす始末。私はアキノリ君の事が大嫌いだった。平気で悪口を言ったり仲間はずれにしたり、そういうことをするから。

余談だが今では考えられないが、当時の道交法ではチャイルドシートの着用義務も無く後部座席に子供がたくさん乗っているなど普通だった。中には農家の家の子供なんてもっと恐ろしく、自家用車の軽トラの荷台にそこの家の子供が乗って登園する姿も珍しくなかった。

そして我が家、毎朝母親は私とアキノリ君、それと年少組のサチヨちゃん、美姫ちゃん、家が少し離れたタカヒロくんを乗せて幼稚園に行くのだった。

 

幼稚園から帰ると習い事のない日は美姫ちゃんたちと遊ぶこともあった。が、美姫ちゃんはとてもわがままな女の子。相手が上級生でもお構いなしに威張る。タカヒロくんもはっきり言って私は大嫌いだった。悪口は言うし暴力も振るう、美姫ちゃんと同じく威張るので。そしてもう一人のサチヨちゃんは美姫ちゃんのいい奴隷。そのうち美姫ちゃんの近所に母子家庭の正子ちゃんという小さめ女の子が引っ越してきた。そしてやはり私らはお姉ちゃんだからと仲良くしてあげないと!と思っていたら、美姫ちゃんはマサちゃん(正子ちゃんをそう呼んでいた)に意地悪をし始めたのだ。それだけじゃなく、しまいには脅すようにもなり、私も美姫ちゃんとは遊びたくなくなってきた。そんな中、そこにアキノリとタカヒロが加わり私に対しても嫌がらせをするようになった。

アキノリもタカヒロも実は美姫ちゃんに嫌われたくなかったから、私をいじめるようになった。

 

私は美姫ちゃんたちと遊びたくないと母親に訴えたが聞いてもらえず、「あんたがもっと大人になりなさい」と言うだけ。けれど私も頭に来ないわけもなく、一度幼稚園で美姫ちゃんやアキノリとかタカヒロに「意地悪する子は車に乗せてあげない!明日から歩いて幼稚園来なさいね」と面と向かって言い放った。

すると美姫ちゃんや他の子の親御さんたちから謝罪の電話の他にやはり「乗せていってもらえないと困る!」という決まり文句。そして母は

「金田さん(美姫ちゃん)とこも佐川さん(タカヒロ)とこも勝手よね〜。うちの子に意地悪しているくせにいざとなると「捨てないで!」だもん。どんな躾してんだか、聞いてるこっちが恥ずかしい。」

続けて

「美姫ちゃんはさぁ、ネズミって感じなのよね。うちの子はふっくらした米って感じでさぁ。そりゃお米はネズミに食べられちゃうわね。ま、美姫ちゃんちは下の赤ちゃんが生まれたばかりだから美姫ちゃんは寂しいんだよ」

それから数日間、私は美姫ちゃんたちと登園しなくなった。うちの母の都合で少し離れたところにある雇用促進住宅に住む千穂ちゃんと千穂ちゃんの妹の萌ちゃんと登園することになった。幼稚園の役員の関係で子供を幼稚園に送りつつバザーの会合があるというので同じクラスの役員さんである千穂ちゃんと登園となったのだ。

千穂ちゃんは背が高く髪も長い、目の大きな女の子だ。そして何よりもとても優しい性格の子で幼稚園に入ってすぐに仲良しになった。年子の妹の萌ちゃんの面倒もしっかり見るので、私も母も千穂ちゃんのことは大好きだった。

母曰く「いくら役員の関係とはいえ、五十川さんと幼稚園行くようになったら香織も落ち着いたわ」。期間限定であっても、私はこの時間が楽しかった。

 

バザーが終わるとまた大嫌いなアキノリや美姫ちゃんたちと関わらなければならない。親同士が勝手にやろうと決めたクリスマスパーティーとか私の誕生会など。中でも誕生会は最悪だった。

美姫ちゃんが途中から仕切りだしたあげく、「美姫はお姫様なの。だからみんなはお姫様の言うことを全部聞かないといけないのよ!あ、きょうは香織ちゃんの誕生会だけど、ここからは美姫のお誕生会にしよ!ね、いいでしょ?」

と、勝手に誕生会を乗っ取り出したのだ。私は悔しくてその場で泣いた。それを見たうちの母は「もっと大人になりなさい!あんたがしっかりしてないからこうなるの!!」と完全に美姫ちゃんの味方…、普通は逆だろうと思いつつどうにもならない状況をただただ見ているしかなかった。

そこへ美姫ちゃんの母親がやってきた。美姫ちゃんはこれからピアノ教室へ行くというのだ。美姫ちゃんの母親はこの惨状を見て驚いていた。誕生会の主人公を差し置いて、あげるように言って渡したはずのプレゼントも美姫ちゃんが自分のものにしちゃっている…そして散らかし放題。

美姫ちゃんのお母さんは

「あんたたち、やめなさい!!」

と怒鳴り、美姫ちゃんを呼んだ。そして私に事情を聞くと、美姫ちゃんの頬を思いっきり平手打ちしたのだ。

「美姫!あんた、なんて事したの?!人様の誕生会を乗っ取ってそれで香織ちゃんのプレゼントも奪って!こんな子うちの子じゃないわ!!」

それから美姫ちゃんのお母さんはうちの母親と私に平謝り。その後美姫ちゃんのお母さんは理由を聞いた。美姫ちゃん曰く

「だって、パパもママもじーじもばーばも宗介(生まれたばかりの弟)ばっかなんだもん。美姫のこと可愛くなくなったんでしょ?宗介なんていらないもん、美姫はお姫様なんだもん。それに香織ちゃんよりも美姫の方が可愛いから何してもいいんだもん!ママのばか!香織ちゃんのばか!宗介のばか!みんな嫌い!!」

美姫ちゃんはわんわん泣いていた。美姫ちゃんはずっと甘やかされて育っていたのだ、宗介くんが産まれるまで。いざ宗介くんが産まれて周りが「宗介!宗介!」となって美姫ちゃんが宗介くんのところに行って家族や親戚に声を掛けても相手にされなくなってしまい、悲しくなったようだ。

美姫ちゃんのわがままは私も大嫌いだった。けれど寂しい気持ちから威張ったりするようになって、そう考えたら私も泣いていた。そこにいたアキノリも泣いていた。タカヒロは「くだらねー」と吐き捨てて帰って行ってしまった。

 

それからは私は母親と一緒に私一人で登園するようになった。

他の子たちは?というと…美姫ちゃんのお母さんの免許が取れたこともあり、美姫ちゃんのお母さんの車に美姫、タカヒロ、サチヨと乗って登園していた。それとアキノリは、アキノリの父親が送るようになった。たまにウチに頼むこともあったけど。

 

時は過ぎて私は小学校中学校とアキノリや美姫、サチヨ、タカヒロ、マサちゃんと一緒だった。高校はアキノリとタカヒロは低偏差値の工業高校に進学し、美姫とサチヨは市内の女子高(進学校)に進学、マサちゃんは吹奏楽部の強豪の高校に進学し、私は市内トップレベルの情報系の高校に進んだ。

高校三年の頃に地元の駅で美姫が男といるところを見かけた、きっと彼氏だろうなと思いつつ、そのまま遠くから見ていた。

それと車の免許を取って一年ほどした頃、商店街近くのガソリンスタンドに車のガソリンを入れつつ灯油を買いに行ったところ、ガソリンを私の車に給油してくれたのが、タカヒロだった。そしてタカヒロは灯油もポリタンクに入れて後部のトランクに入れてくれた。

 

高校生になって、ある程度社会を知って恋愛をしたり、アルバイトをしたり、何だか彼らを見ていて感慨深いと思った。