人に唾を吐く男、吐かれる女
「合わない人間など放っておけ!」
そう言いたいわ、いつの時代もね。
そんな一言から始まった表題のエッセイでございます。
小学生の頃の私にはどうしても胸糞の悪い男がいた。彼の名は「ドブ岡ドブユキ」という男である。どんなきっかけでそうなったのかまでは覚えていないが、一年生になってしばらくすると、ドブユキは何故か私の跡をつけるようになってきた。それだけじゃなく、ランドセルに着いているキーホルダーを毎日チェックするのである。
私達の学校はランドセルを教室後方の棚に入れておくことになっていたのだが、そこの中までわざわざ覗いてまでランドセルを調べ上げるので気持ち悪かった。決まって「実験!実験!」と言って私のランドセルを調べ上げるものだから本当に嫌悪感しかなかった。
他の女子にはやらないのだが、私にだけはやるというたちの悪さ。一度ドブユキのせいで不登校になりかけたぐらい。
先生もこの実態を知っているのにも関わらず注意のひとつもしてくれず、私は気分が悪かった。クラスメイトも然り、誰も助けてくれない。もう最悪。
そして2年生になったらなったでまたしてもドブユキとは同じクラスとなった。相変わらずドブユキは私のランドセルを調べ上げる、行動をチェックする、まるでストーカーであった。そしてドブユキの行動はエスカレートしてしまうのだった。
下級生たちに「高坂はる香をいじめてもいい!」ということを言って回っていたそうだ。そして私は身上も知らぬ下級生からもいじめに遭った。
小学6年の時、この日はエリは休みであっこちゃんはブラスバンドの引き継ぎということで一人で帰っていた。すると後ろの方からガヤガヤと男の子たちの声が聞こえてきた。すると、いきなりそのうちの一人が私に襲いかかってきたのだ。
「一体これは?!」
と思う間もなく、その周りにいた下級生の男子たちが代わる代わる私に暴力を振るうのだった。中にはわざわざ戻ってきてまで顔を殴る者まで。確か7人ほどだった。
そこに下級生の女子数名が通りかかって、その男子らを追い払ってくれた。
「あんたら、何してんの?!」
「やめなさいよ!!先生に言うよ?!」
「はる香ちゃん、大丈夫?」
その子達は必死に止めに入って追い払ってくれた。けれど私はその後下級生の男子から耳を疑うセリフを聞くことに。
「だってドブユキくんがこいつのこといじめていいって言ったんだもん!」
悪びれる様子も無かった。こいつら、ドブユキの手先だったんか?!と腹立たしく思えていた。
ちなみに追い払ってくれた女子はクラブ活動などで仲良くなっていた私の知り合いということもあって、話を聞いてくれたのだが、私は同時にとても情けなくなった。下級生にいじめられ、下級生に励まされるなんて…と。
翌日。
私のいる教室にて。確か二時間目の授業中だっただろうか。五年生の学年主任が教室の扉を開けて、それに続いて男子児童数名が教室に入ってきた。その男子児童は私に暴力を奮った奴らだったのだ。
そして五年生の学年主任は皆に向けて
「この子たちは、このクラスの女子に暴力を奮ったのでここにいます。今からなぜそういうことをしたのか理由を話してもらい、謝罪してもらいます」
まさに公開処刑…だった。そして下級生の男子たちが一人ずつこう話す。
「ドブユキくんがいじめていいって言ったから」
「いじめていいって思ったから」
「ドブユキくんからいじめないと殺すって言われたから」
「ストレスがたまってたから」
ほとんどの奴の口から出たのはドブユキ…、やっぱりあいつだったか。そこでドブユキのクラスの先生とドブユキが私のクラスに連れて来られた。
「ドブ岡、これはどういう事なの?下級生にいじめをしろって命令したの?」
先生はドブユキを責める。しかしドブユキは
「言ってない、こいつらが勝手にやった」
とシラを切る。だが、下級生たちは
「毎日ずっと言ってた!それに跡をつけて「あいつだ!」とまで言ってたじゃん!」
「ドブユキくん嘘つき!」
そんなこんなで教壇前でドブユキと下級生男子らによるくだらない痴話喧嘩が始まった。うちの担任もクラスメイトもさすがに呆れている。
学年主任もさすがに見かねたようで
「いい加減にしなさいっ!あなた達ねぇ、理由がどうでも人をいじめるなんて最低だよ!ここに何するために来たの?高坂はる香さんに謝りに来たんでしょう?」
と怒鳴りつけた。五年生の学年主任ってこんなに怖かったっけ??というぐらいの剣幕だった。
謝罪はドブユキから始まり、他の下級生たちも私に謝ってきた。
「高坂さん、殴ってごめんなさい」
「ケガさせてごめんなさい」
「許してください、ごめんなさい」
その時ドブユキが薄ら笑いを浮かべたのを見た私はすかさずこう言った。
「許すことはできない!ドブユキと、ここにいる五年は絶対に許しません。ここで許すと言ってしまったらまた同じことをすると思うからです。そんなの簡単にわかる事でしょう?だから何があっても許しません、許したくありません」
そこで学年主任の先生が
「そう言わずに、この子達は反省してるの」と取ってつけたような物言いをしてくるので私は更に頭にきて
「じゃあこの話は校長先生に言ったんですか?それとも教頭先生にも言いましたか?集団でのいじめはテレビのニュースでも問題になってますよね?それに自殺した子供もいるのはご存知ですよね?」
学年主任は驚いたような表情だ。
続けて私は
「私はドブ岡に何も悪いことはしていません。それなのにいじめにあうなんて酷くないですか?しかも関係のない下級生まで使うとは卑怯です!そんな人間は許すと思いますか?土下座をしても許しません。警察に逮捕してもらってください」
と言って私は教室を出て行った。何なんだろう、みんなバカなんだな。
ああ、みんなバカだよ。
キチガイだよ。
人をいじめていい気になるなんて、本当に根性腐ってる。
その後担任からも許してやれと言われたが、私は断固として奴らの謝罪を受け入れることはしなかった。私は前日の暴力で口の中を切ってしまっていた。それ以前に心にはナイフでえぐられたような傷が残る結果になったから。
そして小学校を卒業、中学に進学した。
そんなある日、バス停でドブユキらに遭遇してしまった。私はドブユキらから離れて歩き出したのだが、追いかけられて事もあろうか唾を制服に吐かれたのだ。
唾を吐くとか?!ドブユキって…人として腐ってるとしか思えない。そう思った瞬間だった。制服も唾ひとつで汚物に見えるぐらいに気持ち悪く思い、捨ててしまいたいぐらいだった。
汚い、気持ち悪い…しばらく立ち直れなかった。ましてや人に吐いた唾など、私には耐えられない。
それから中学卒業まで、ドブユキとはクラスも一緒にはならず、卒業まで過ごすことに。だが、極めつけは…ドブユキの進学した高校は入試で名前さえ書けば合格するような教育困難校だった。
アハハ、高校合格おめでとう…ってところだった。ちなみに私は市内一の進学校と同等の学力が無いと合格できないような情報系の高校を受験、合格して入学。
ドブユキのような腐った根性の持ち主などいませんでした。