Darkness world -ある捻くれ者のつぶやき-

成瀬香織です。私の幼少期からの出来事をエッセイ形式で書いていきます。(ちなみにこれは全て私の心理カウンセリングで使われたものです。虐待などの内容を含むため、閲覧にはご注意ください)

続・狂った人生

新人時代は本当に嫌なことばかりだった。正直嫌過ぎて頑張ろうという気持ちなど微塵もなかった。入社前に新人研修で数日間通勤していた。その帰り道はずっと「自分の本当に進む道に進みたくても進めない」悔しさから実はずっと泣いていたのだ。それから入社して間もなく、今度は親睦会主催の新人歓迎会があるというのだ。が、正直私は出席すらしたくないと思ってしまった。新人歓迎会に主役として出席するようになってしまい、「これで私はもう・・・ここから抜け出せないんだ」という悲しい気持ちからずっと人のいない場所で泣いていた。

歓迎会に出席すること自体死ぬほど嫌だった。そこで先輩に出席は強制かと尋ねてみた。すると先輩は「そりゃ新人や赴任してきた人たちの歓迎会なんだし、そこに主役がいなかったら意味ないでしょ」と。暗に強制であると言っているようなものだった。本当に嫌で嫌で仕方がなかった。親と親の知人に根回しされて無理矢理入社させられた挙句、ほぼ監禁のような状態で・・・これこそ本当に八方塞でしかない。そしてその歓迎会には先輩たちに無理矢理会場へ連れて行かれた。私には拒否権というものなど無い。これだけではなくここでも上司や先輩たちからは無理矢理酒を飲まされて私はすっかり出来上がってしまった。周りもその異変に気づいていながら酔った私を見て笑うのみ。帰宅するのもやっとの状態になっており、無事に帰宅出来たのが不思議でならない。当時私は自宅から職場まで毎日通勤していた(電車で片道1時間40分。当時の職場は「女性社員は自宅通勤のみ可能」とされていて、一人暮らしは禁止されていたため自宅から通うことになった)。酔っていても1時間40分かけて帰宅することになる。酔った体には正直辛いものであった。こんな事なら会社近くにアパートでも借りて一人暮らしと何度も考えたが、両親には猛反対されてしまい、結局実現せずだった。それに会社にバレたとなって懲罰を受けるとなればそれこそまた両親や知人に何を言われるか・・・。現実から逃げられない・・・。 

 

私がそこに入社して最初に与えられた仕事は顧客からのクレーム受付、契約の解約処理などだった。当時私のいた生命保険業界は非常に不安定であり、同じ業界内で実際にその年に1社倒産したこともあり、その関連での解約が相次いでいた。やはり客も不安だったのだろう。加えて世の中も大不況、就職氷河期、そんな中で今まで潰れることが無いとされていた生命保険会社の倒産・・・、本当に混沌とした時代にその業界に入社してしまった(後に金融保険業界では銀行や証券会社も破綻するという事態も起きている)。ある時には一日の解約件数が70件以上ということもあり、私一人では処理しきれなくなってしまったこともあった。今回のこの70件以上というのはどう見ても無理だ。だから私は何度も上司に「ひとりではこの件数を一日で処理するのは不可能だ」と申し出ても何もしてくれず、「他の人たちはどんなに忙しくても一日でそれぐらいは終わらせる。お前に出来ないことは無い」などと取り合ってくれなかった。そのおかげでその日はコンピューター処理だけで17時ぐらいになってしまい、会計担当への送金処理はその日のうちに間に合わないという事態になってしまい、私は上司や会計担当のお局様にこっぴどく怒られた。だが私は事前に「無理だ!」ということは上司に伝えて解決法も相談していた。それなのにこの状況・・・、私の上司は何もしてくれない上に自分の失態を部下に押し付けるというお粗末な上司でしかない。それ以外は考えられない。もし私が上司に相談したときにちゃんと解決方法を考えて指示をしてくれたのなら私はこんなに悔しい思いをしなくても良かったうえに会計担当のお局様を怒らせることも無かったはずだ。

そもそも始業時間が朝9時で、その日の送金処理が15時。始業時間と共に書類の確認、不備があれば担当の営業所にその都度確認の電話を入れる。そこからコンピューター上で解約の処理をして、会計担当に送金依頼をかけるとなっても70件以上となればその日のうちに全てを処理するのはどう考えても不可能であると判断した。ちなみに解約処理というのは書類を受け取ったその日のうちに全て送金を依頼するのが鉄則である。お客様が解約をする理由の中には、その解約返戻金をあてにしている場合や営業の職員とのトラブルが理由で解約するものもあるからだ。上司はそういう事態など想定していないのか?この日私がその1件で悔しい思いをしたのはそれだけではなかった。同じ部署にいた私より2年先に入社した先輩がそこに参戦してきて、私を罵倒し始めたのだった。その先輩曰く私は数日前に届いた書類を隠して処理をしないで放置していたというのだ。だが私はそんな事はしていない(書類を受け付けた際に押した日付印の日付は紛れもなく当日だった)。そして散々汚い言葉で罵倒され、挙句「お前みたいな役立たずは今すぐ消えろ!」と怒鳴りつけられた。本当に私は悔しくてその場で先輩に「あなたに何が分かるんですか?教育係でもないくせに!そんで何も知らないのに自分の正義を振りかざすの?そういうのマジムカツク・・・、てめぇ、先輩ってだけで威張るな!黙ってろボケ!!」と泣きながら応戦してしまったのだ。

身に覚えの無いことを押し付けらた挙句、嘘つき呼ばわりまでされる。悔しいはずがないし普段は黙って先輩や上司の言う事を聞いていてもこうして有りもしないことをいかにも本当にあった事のようにこのような場で言われて黙っていられるほど私は心が広くはないしお人よしでもない。この先輩は私の仕事を常に監視しているのだ。そしてミスでもしようものならすぐに上司に言いつけて媚を売るというようなたちの悪い性格の女性だった。それだけではなく、会計担当のお局様にも擦り寄って媚を売っているのだ。この先輩が関わると私の立場は一気に悪化する。

実はこの事件以前にも受付が管理を担当しているATM(クレジットカードのようなカードを使って保険契約から紙での手続きをせずにお金の貸付を行ったり出来るもの)の中の金額が1000円だけ合わないという事態が発覚した。そしてその日の担当は私だったということで事態は更に悪化。それが発覚して私は原因を探っていたが、全く原因が分からず上司に報告をしたのだが、そこでもその先輩が出てきて私を「泥棒」だの「最低」だの罵り出した。だがこれについては原因すら分からないうえに、私はそこからお金を盗んでもいない。むしろたった1000円ぽっちの金額を盗むほど生活に困っているはずもない。それなのに身に覚えの無い事態に困っているところで泥棒呼ばわり。このまま消えてしまいたいとも思ったぐらいだった。泥棒呼ばわりした先輩に殺意も沸いた。だがそこで私たちの部署でいちばんキャリアの長い先輩が私を助けてくれたのだ。こちらの先輩は会計担当にも何度も確認をしてくれて本当に金額が合っていないのか?今朝ATMにお金を入れた時の伝票も見せてほしいと懸命に確認をとっていた。結局は会計担当のミスであることが判明し、上司たちからは「以後気をつけるように」と言われるだけで私はお咎め無し。私はシロだったのだ。だが本当の悔しさはここからだった。2年先に入社した先輩に私は何も悪くないのに泥棒呼ばわりをされたり本当に傷付いた。だが謝罪すらないうえに上司からその先輩に対してもお咎めなしというものだ。無論会計担当のお局様からの謝罪も無かった。やはりたとえ身に覚えの無いことでも私がいちばん若いということだけで身に覚えの無い罪も認めてみんなのサンドバッグにならなくてはならないのか?とも思ってしまった。

そこで後日上司にこのATM事件について改めて迷惑をかけたと謝罪をしたうえで、上記の「たとえ身に覚えの無いことでも私がいちばん若いということだけで濡れ衣を着せられてみんなのサンドバッグにならなくてはならないのか?」ということを訊ねてみた。

すると上司は

「新人が必ずそういうわけではないけれど、その泥棒呼ばわりをした先輩はどうしても責任感が人よりも強くて・・・。初めての後輩ということもあって、この間みたいな状態になってしまうんだ。けれど、根は悪い子じゃないから悪く思わないで欲しいし、仕事上でも決して恨まないでやってほしい」

と。当たり前だが上司としてはそう言うしかないのか。それにしてもこっちは完全に言われ損であることに変わりは無い。泥棒とまで言われて黙っていられるか!犯罪者呼ばわりをされたのと同じだ。上司のいう事も分かるが、これでは私自身自分を殺してこの場にいるしかなくなってしまう。もう誰も信じたくない、もう仕事も辞めたい・・・。だがこの時は思いとどまった。

その直属の上司というのが、これがまたクセのある人間で正直好きにはなれなかった。というのも今で言う職権乱用なんて日常茶飯事。客や自身の上司には妙に低姿勢でペコペコしているくせに自分よりも格下の人間には恐ろしいほど横柄ですぐに威張るという最悪なもの。また、気に入らない客に対しては客が帰ってから「あのボケ老人」や「キチガイババア」などと悪口言い放題。本当に何度も苛立ったものだ。それに自分の立場が危うくなると部下に自身の罪を平気で擦り付けることもよくあった。たとえば私の所属する支社管轄のある営業所の所長の身内が契約している保険を解約する件について、所長は以前より解約を支社に申し出ていた。いくら職員の身内だとしても、その身内の方なりにも事情があったのだろう。だが、支社側はそれを認めておらず、解約担当であった私にその所長が解約の書類を直接持って来たのだ。だが担当者だった私には上司からこの話(この契約の解約は受け付けないでほしいなど)が全く来ておらず、私はそのまま処理をしてしまった。そしてその書類を上司が見つけるや「この契約、受け付けるなってお前に言ってあっただろう!それも分からないのか?」といきなり怒鳴りつけたのだ。そしてこれだけではなくこの事態についての始末書を無理矢理私名義で書かせたのだ。

無論元凶の所長は私に謝罪、所長側から上司に私には罪が無いと一言話したそうだ。だがこんなことだけで私の怒りが治まるはずがない。ここでも私が全く話を聞いていない一件について関係が無いのに謝罪させられ、始末書まで書かせられている。言うまでも無く私ひとりが勝手に悪事を犯したような状態だ。その他にも嫌がらせか?!といえるぐらいに何かにつけて私に上司の不祥事を擦り付けられては始末書を書かされるという事態になっていった。なぜ私が?私は何も悪くないのに・・・。それにここにだって私自身が自分の意思だけで就職活動をして入社したわけじゃない。すべて嘘で塗り固められたようなもので無理に入社させられたのに。加えて言うなら私は英文科か芸術系の大学に進学するか海外留学をしたかったのに、両親を何度も説得したのに、それなのに・・・。自分の好きな道に進むことも許されずにこんな酷い目に遭うなんて。もうみんな捨ててしまいたい。この会社からもいなくなりたい・・・。その時私の中で何かがプツリと切れたのが分かった。 

その日、帰宅して母に言った。

「もう仕事辞めたい。どうして私だけこんな苦労をしなきゃいけないの?私はあなたたちの嘘や見栄だけであんな会社に毎日長い通勤時間をかけて通ってボロ雑巾のようになって帰宅して・・・。そして会社に行ったら行ったで身に覚えの無いミスを押し付けられて。はっきり言ってもう死にたい。もう会社なんて行きたくない。あんな上司なんて大嫌いだし顔も見たくない」

と、死んだような目をして私は母にそう言ったのだ。もう悔しすぎて悲しすぎて涙も出ない、泣く気力も無い。表情ももうすでに消えている。母は話は聞いてくれた。だが、

「今辞めさせる訳にはいかない」

「一流企業なのにもったいない」

「お父さんだって仕事が出来ない部下がいたら怒るんだからミスをしたら怒られて始末書を書かされるのは普通!」

「あなたの上司は教えるのが上手なの」

「こっちはあなたを入社させるためにどんなに苦労したと思ってるの?」

などと私の気持ちを汲まない発言が並んだ。ここでも母は私の意志云々よりも自身の見栄を取ったのだ。

そこで私は

「じゃあお母さんは私が自分の進むべき道はお母さんの言うとおりじゃなければいけないの?私を入社させるのに苦労したって言ってるけど、私に監視までつけて履歴書に堂々と嘘書かせたじゃん。そんで嘘だったって勝手にバラしてるし。私がそのお陰で今の会社に居づらいというのが分からないの?それにそんなバカみたいな嘘をついてでも私をそこにどうしてねじ込みたかったの?結局自分さえ良ければなんでしょ?」

と訊ねた。すると母は

「あんたの高校の頃の成績じゃ大学にも入れない、いい会社に就職も出来ないから知人に頼んでやったんでしょ?縁故就職だって実力のうちなの!それに周りの人のお陰であんたは名の知れた会社に入れたんだから感謝しな!それに就職試験の時だってお母さんは先生に頼み込んであんたの成績証明書の成績にゲタを履かせてもらったんだから!あれだって恥ずかしかったわよっ!」

母がいなければ私は就職も出来なかったというのか?母自身のおかげで私は今のポストにいるのか?じゃあ、これは母の思惑だったのか?図ったのか??やはり、私自身の意志や欲よりもこの就職自体実は母自身の見栄だった。ここで確信した。自分のわがままや見栄のために自身の娘とはいえひとりの人間の人生を踏みにじったことが発覚した瞬間だった。 

私はそれを聞いて母に何も話す気力は無かったが・・・、ゆっくりとした口調で母に訊ねた。

「そうなんだ。成績証明書の件だって私は何もそんなこと頼んでないよ。勝手にそっちが成績証明書にゲタを履かせてほしいって先生に言ったんだよね?すべて私が悪者になっているみたいでこっちは居心地が悪かった。私さぁ、先生にあの後「有印私文書偽造の犯罪者」って言われたんだよ?それでも嬉しい?お母さんは結局自分で出来ないことを私にさせることで満足しちゃってるんだね。そうでしょ?」

その私の問いに対して母は

「そうじゃないの!あんたのためを思ってのことなの。あんたには幸せになってほしいから・・・。それにいつまでもお父さんとお母さんの素敵な娘でいてほしいから」

もうこの人には何を言ってもダメだなと思い、私は静かに・・・

「もう何も言わないで、私、今の仕事辞める。もうあの場所には行かないから。これからのことは自分で何とかするからもう私のしたいことに干渉しないで!迷惑だから!」と言い残して部屋に戻った。 

 翌日、私はわざと寝坊をしようとした。が、ここでも母のお節介が。

「ほら、朝だから起きなさい!会社行くんでしょ?」

「行かない」

「どうして?ちゃんと休まないで行かないとだめでしょ?」

「知らない」

「起きないんだったらそのまま駅まで連れて行く!」

「勝手にすれば?」

「もうっ!何のために会社行ってるの?」

「辞めるって言ってるじゃん」

「もうっ!そんなの嘘にきまってる!あんたが会社を辞めるなんて認めない」

「あ、そう。あのさぁ、それとそんなに『もうもう』言ってると牛になるよ?」

このようなやり取りになり、母はキレて私を布団から無理矢理引きずり出した。私も渋々着替えて最寄駅に向かった。だが、会社に向かう気が起きなかった。

とりあえず電車に乗り、会社の所在地の駅方面へ向かった。そして電車は会社の最寄り駅に到着、私はそこで電車を降りる。とりあえず会社に向かうがまたここでも上司から始末書を書けとなってしまった。

 

このあたりから、実は私の食欲に異変が。突然何も食べられなくなってしまった。酷いときには水すら受け付けない。仕事中に差し入れをもらって、これなら食べられるかと思っても、その数分後にはトイレで吐いているのだ。最初は会社の中だけで食べては吐くという行為をしていたが、次第に自宅でも食べては吐くという行為をするようになっていった。体重はみるみる落ちていき、顔色も悪く常に死んだ魚のような目をしていた。客の前に出るのに、まるで死人のようなメイクをしていたこともあった。自らの行動が異常だということに気づかなかったのだ。無論同僚からは別の意味で怖がられ、上司からは異常なほどに心配されるようになった。同時に同僚たちの間から「そのうち自殺でもするんじゃないのか?」という声まで上がった。

 そんな誰が見ても異常な状態であったある日のこと、自宅にて夕食を摂ってまたいつものようにトイレで吐いていたのを母に見つかったのだ。すると母は心配するどころか私に信じられない一言を。

「食費が無駄になるからやめて!」

私自身の体調や精神異常よりも我が家の食費の方が重要なのか?と絶望した。が、私は母に

「私のことなんて心配じゃないんだね。自分のしたくないこと、嫌なことばかりじゃあ・・・いずれこうなるよ。そのうち私が死んでも誰も悲しまないだろうね・・・」

と呟いた。母はここでは何も言わなかった。

 

 そして年末が過ぎて正月休みに。この年の正月休みは教習所時代の友人数名と共に過ごした。地元でフリーターをしている子もいれば、東京の短大や看護学校に進学した子もいる。それと私と同じ地元から私の職場近くの短大に通うものもいた。そしてそんな境遇の違うみんなが他愛の無い話で終始盛り上がる。遠出して写真プリントシール機で写真を取ったり、ボーリング場でボーリングやゲームをしたり、わらわらと繁華街の回転寿司屋に行って寿司を食べたりして思う存分ガールズトークを楽しんだ。ここで気づいたのだが、この時だけは食べて吐くという行動は全く無かった。正直今のこの異常さを友人たちに悟られまいと必死になっていたところもあったが、友人と一緒にいることで自分らしさを全力で表面に出していたのだろう。無論負の感情など忘れて。結局この日は夜中の12時前ごろまでずっと友達とカラオケに行ったりしてワイワイしていた。そして楽しかった正月休みも終わって年明け最初の出社日。ここでも事件が起きていたのだ。

 またしても身に覚えの無い失敗を擦り付けられたのだ。犯人は未だに分かっていない。先輩たちに事情を訊いたところ、どうやら私のデスク上にあるデスクマットの下から解約処理済みの明細書が見つかったというのだ。私は担当しているとはいえ何のことだかさっぱり分からず、言うまでもなく私が処理したものでもなかった。しかも事もあろうか、その解約処理済の書類には本来あるべきの保険証券も解約請求書も付いていないのだ。そんなもの、私がするわけが無い・・・。私が昨年の年末にデスク周りを片付けたさいにはその書類は私のデスクには無かった。それに年内に届いた書類は全部処理して送金手続きにも回しているはずなので、そこにその正体不明な書類があること事態不自然である。だが、ここでもやはり担当者ということもあって私のせいになってしまって今度は本来解約すべきではない契約であるために急いで本社へ連絡、本社向けの解約取り消しの申請を出すこととなった。そして言うまでもなくここでも上司から始末書を書かされたのだ。私は何も悪くない、それなのにどうして?しかもこんなこと、一体誰が仕組んだの?本当に身に覚えが無いために気持ち悪い。始末書を書かされた挙句、上司に「明日から会社に来なくていい!」と感情的に言われてしまった。

 ここでも私は何かが切れてしまったのか、すかさず上司にこう言った。

「分かりました。もう来ませんから、ここには・・・それじゃ・・・。今すぐ死んでやるよ・・・」

と上の空な雰囲気で上司に伝えて私は屋上に続く階段へ向かって走り出した。その時私の中ではもう全てにおいて絶望しか無かった。こんなに頑張っているのに周りからは嫌がらせをされて、濡れ衣を着せられ常に悪者にされて・・・、上司も上司で自分の保身のために私に罪を擦り付けて・・・。絶望した私の中で逃げ道は「死」しかなかった。会社にいても家にいても「自分」が無いのだから。

 私のその気持ちをを察したのか、すかさず上司に腕を掴まれて引き止められた。この時の状況はあまり覚えていないが、上司に腕を掴まれて止められたことだけは覚えている。そして上司の掴んだ私の左腕には・・・、この時既に数箇所にリストカットの傷があったのだ。実はこの1ヶ月ほど前から頻繁に会社のトイレでリストカットをしていた。片手にカッターを握ってもう片方の腕や手首に切り傷を入れていくというその行動が自分の精神を安定させていたのだ。もやもやした気分を晴らせる、痛みで心の傷を癒せる、そんな経緯だったのだろうか。その時も手首には新しい傷がきれいに残っていた。無論上司にも見つかっている。

 

 そんな私を見かねたのか、後日私に散々濡れ衣を着せて始末書を書かせていた上司から会議室に呼び出されて

「ここまで追い詰めて苦しませてすまなかった・・・」

と謝罪された。私は素直にそれを受け入れなかった。

「会社でも家でも私には居場所が無い。私なんていなければいいって何度も考えた。そんな中でどうして濡れ衣を着せたり嫌がらせが出来るのか、私には理解できない。もう何もかも、全てに絶望した・・・その気持ちに変わりはありません。それと前にあなたは私に言いましたよね?必ずしも私のような新人が先輩や上司のサンドバッグになる必要は無いって。まさかそれは嘘だったってことですかね?」

すると上司は

「そういうわけではないんだ。そうなったのも実は君の性格上のこともあったのかもしれない。全部がそうじゃないんだが・・・。例えば君は気が小さいのか電話を取るのにもなかなか気が進まない、真面目すぎるのか仕事に夢中になってしまうと他の事に目を向けられない。それが自分でもきっと苦しかったんだろう。だけど、もっと前に進んでほしかった。そういう私たちの思いとは逆で君はなかなかそうもならず、焦りからか私も指導に熱が入ってこういう結果になってしまった。それについてはちゃんと謝罪する。それと・・・、君は若い。若いからこそ苦労すべきところも当然あるし、学ぶこともたくさんあるだろう。私も君の先輩方の考えも君の考えもきちんと理解していたつもりだった。そんな中で私も君には早く一人前になってほしいと思って、いろいろと厳しくしてきたつもりだが・・・結果的には間違った方向に君を誘導してしまった。それが、こういう結果を招いた。それに想像以上に君を追いつめてしまった以上、私にもきちんと事後をフォローをする責任があるから」

 上司からの謝罪は予想外だった。正直言ってあんな「クソ上司」なりにもいろいろと考えていたことがあったのだろう、そう考えると少し気が楽になった。だが、いくら上司が謝罪したからといってそれで全てが帳消しだなんて思えない。それに過去だって戻らないのだから。これだけで事態は収束するかと思いきや、2年目でもこの上司は相変わらずだった。またしても部下に濡れ衣なんて当たり前。相変わらずの傍若無人ぶり、呆れたものだった。そこで3年目に入る前に会社に私は異動願いを出した。支社での勤務ではなく、自宅から近い距離にある営業所勤務を希望した。そしてこの異動が、私にとって最悪なものになろうとは、その時の私はまだ知る由も無かった。